賢いショッパーたち
程度に差はあるものの、不況時には多くの消費者が高額品の購買を控えたり、さほど重要でない商品やサービスに関する支出を切り詰めたりします。また、 消費を控えるために、家の中や近場で余暇を楽しもうとするなど、ライフスタイルそのものが変化することもあります。
消費者の変化にいち早く気が付くため、買い物を目的とする店頭へ訪れた人(ショッパー)たちの以下のような行動を、マーケターは見逃さないようにしなけれ ばいけません。
- チラシで特売品を確認し、 計画的に決めたものだけ買い物をする。
- プライベート・ブランド(PB)を選ぶことが多くなる。
- より安価で割引商品の多い店を選ぶ。
- 商品のパッケージを念入りに読み、納得したものだけをかごにいれる。
- いったんかごに入れた商品をレジ前で放棄する。
- 検討中のものが必需品でない場合、手ぶらで帰ってしまうこともある。
ショッパーの行動は、選択過程において常に複雑であり、不況時にはその傾向が顕著になります。
このような変化に対応するため、マーケターは、消費者が店内で自社商品のカテゴリーにどんな態度で接するのかを注意深く観察することで、自社ブランドを 成長させる方法を知ることができるのです。
ショッパーを納得させ、満足させる
従来の不況においては、消費者は一時的には財布のひもを締めるものの、景気が回復したとたんそのひもを緩めていました。ただ現在直面している不況は 非常に深刻で、短期的にも長期的にもショッパーは行動形態を大きく変えると見られます。消費者は理想ではなく、現実を見つめるようになっています。
不況下のショッパーは、どのように変化し、どのようなことを考えて行動をしているのかを理解しなければなりません。それに基づいて、チャネル、品揃え、販 促、店内でのアクティベーションを最適化しなければならないのです。
TNSインフォプランの調査によれば、「RSI(リテール・サティスファクション・インデックス=小売店満足度)が高ければ高いほど、ショッパーが一回の来店で支 払う金額が高く、またが低い店は、昨年よりも買い物頻度が減ったと回答される割合が高い。RSIは、小売店の重要なビジネス指標である来店頻度や客当り 単価に直結する数値である。」という結果がでています。
調査では、各部門トップの店の特徴について、部門別でRSIトップを獲得した店はいずれも、「従業員の応対」「PB商品の品揃え」「店の広さ」「価格」などの点 で他の店とは明らかに異なる特徴を持っています。「来店者を満足させ、さらに再利用や他の人へ推奨を促進するためには、平均的に良い評価を得ることよ りも、その店にしかない強みをわかりやすく訴求することが効果的といえる」と分析しています。
これらに役立つのが、ブランドの確立です。
小売店満足度は価格だけで得られるわけではありません。従業員の応対はもちろん、自社製品に対して好ましい意識を抱かせるようにデザインされた店舗 環境なども消費者に対するコミュニケーション要素であるということがおわかりいただけると思います。
近年、規模の不況で生き抜こうとする小売業者は、従来よりも積極的なマーケティング展開によって、ショッパーを店頭へ誘導しています。このトレンドの変化 は今後も際限なく続くと予想されます。
ブランドは企業の資産である
1980年代の末ごろから、ブランドは資産であるという考え方が広まりました。それとともに、従来型ブランド・マネジメントは見直され、新しいブランド・マネジメ ントの枠組みが提示されるようになっています。デイビッド・アーカーによれば、ブランド・エクイティを構成する要素は次の4つであるとされています。
■ブランド認知
ブランドが、どれだけ知られているかということ。競争の土俵に上がるためには、まず多くの顧客に知られていなければなりません。そして広く知られている ほど、当該ブランドの資産的価値は高くなります。
■知覚品質
顧客にうけとめられている品質。ブランド・エクイティには、機器などによって測定される客観品質よりも、顧客の主観的な知覚品質の方が大きな影響力を有 しています。いわゆる実態よりも、イメージの方が大切なのであるとも言えるでしょう。
■ブランドロイヤリティ
ブランド・ロイヤリティの水準が高いということは、強い支持者がいるということを意味しています。彼らは、競合ブランドが安売りをしていても簡単にはスイッ チしません。また、目的のブランドが品切れであれば、別の店舗にまで足を運んで購入してくれる場合もあります。
■ブランド連想
ブランド・ネームが提示されるとき、私たちはなんらかの事柄を思い浮かべることがあります。好ましくてユニークな事柄との結びつきは、ブランドの資産価 値を高めることが知られています。
ブランド・エクイティは、企業のキャッシュ・フローへのプラスの影響をもたらします。また、ブランド・エクイティには、流通業者からの支持を得やすくするとい いったメリットもあります。
ブランド・ポートフォリオを構築する
自社の各商品のブランド・パワーを相対比較することを通じて、それぞれのブランドにどれだけ資源を投下するのか(あるいはしないのか)を決めることを、ブ ランド・ポートフォリオと呼びます。これは非常に有効な方法です。それぞれのブランドにどれだけの資源を投下するかだけでなく、いずれの部面に投資する かも、このポートフォリオのフレームから明らかになるでしょう。
毎期ごと、ブランド・パワーを調べていると、こうしたブランド・パワーの変化がわかります。そして、その変化を指標に沿ってみていると、改善点がピンポイント で理解できるようになります。これが、ブランド・パワーとブランド・ポートフォリオの最大のメリットです。つまり、ブランド・パワーの概念を用いることによって、 ブランドのという場の変化をいち早くとらえることができ、またパワー低下現象の原因を見極めることができます。さらにそれらの原因の違いによって打つ手を 選ぶことが可能になるのです。
ブランドの構成要素
ブランドの要素を構成するのは以下の7つです。
■ネーム
ブランドの名称そのもの。ブランドネームが優れていれば、それだけ有利なブランド・マネジメントを展開することができます。
■ロゴ
ブランドのネームもしくはその一部を、独特の書体で描いたもの。ブランドはロゴを有することにより、聴覚だけではなく、視覚に訴えることができるようになり ます。
■シンボル
ロゴと同じくシンボルも、ブランドの価値やメッセージを象徴する視覚的要素です。
■パッケージ
多くのパッケージ製品においては、パッケージが重要な役割を果たしています。独特なパッケージの形状や素材やデザインによって、ブランドの存在感が高 められることも珍しくありません。
■スローガン
ブランドの価値や特徴を短いフレーズに圧縮したもの。優れたブランドには優れたスローガンが備わっていることが多いものです。
■キャラクター
シンボルの特殊タイプ。架空あるいは実在の人物や動物などをかたどったものを指します。
■ジングル
あるブランドに関する音楽によるメッセージ。コマーシャルソングもジングルの一種です。
ブランドを成長させるための戦略
ブランド・マネジメントにおいては、大きく3つの視点で検討する必要があります。
1.ブランドの基本戦略
ブランドの基本戦略は、対象とする市場が既存なのか新規なのか、という2つの次元によって整理することができます。
■ブランド強化
対象市場もブランドも変更しない戦略でで、最もリスクの少ない戦略である。市場への浸透が不十分であったり、ブランドの鮮度が薄れてきたり、競争が激 しくなった場合、この戦略が採用されることが多いようです。
■ブランドリポジショニング
既存のブランドで新しい市場を狙う戦略です。対象市場を思い切って新たに設定し、売上高の増加を狙うことが可能です。
■ブランド変更
同じ市場をターゲットとし続けるが、ブランドを新しいものへと変更する戦略です。値崩れしてきたブランドを廃棄し、新しいブランドで消費者に鮮度を訴える ことができます。しかし反面、過去に築き上げてきた認知度やロイヤル・ユーザーを放棄し、ゼロからのスタートとなるので、大きなリスクを伴った戦略でも あります。
■ブランド開発
新しいブランドで新しい市場を狙う戦略です。経験のない市場に、消費者に知られていないブランドで参入するので、最もリスクの高い戦略です。
2.ブランドの採用戦略
ひと口にブランドといっても、その冠し方には様々な選択肢があります。どのタイプをするかというのがブランドの採用戦略です。
■ 「企業ブランド」戦略
扱っている製品ラインの標的市場が同質的で、しかも製品ライン間のイメージや競争地位も同質的である場合、全ての製品ラインに同一ブランドを付け るとよいでしょう。個々の製品ラインをそれぞれに広告・販促活動するよりも、統一されたイメージで訴求する方が有利だからです。
■「個別ブランド」戦略
標的市場が異なるだけでなく、製品ライン間のイメージや競争地位も異なる場合には、製品ライン別に異なったブランドをつける「個別ブランド」戦略がよ く用いられます。統一的なコミュニケーションを展開する必要がないので、異なったブランドを採用して、個々の製品ラインの特徴を訴えることができます。
■「ダブル・ブランド」戦略
標的市場は同質的であるが、製品ライン間のイメージや競争地位が異質的である場合は、統一的なブランドと個々の異なるブランドを組み合わせる「ダ ブル・ブランド」戦略が有効です。
■「ブランド・プラス・グレード」戦略
標的市場は異質的であるが、 製品ライン間のイメージや競争地位が同質的である場合は、統一的なブランドにグレードを加える「ブランド・プラス・グレー ド」戦略で対応します。
■「ファミリー・ブランド」戦略
2つの次元のいずれもが中程度である場合、製品ライン群をなんらかの共通性に応じていくつかに分け、それぞれに異なったブランドを与える「ファミ リー・ブランド」戦略が適しています。
3.ブランドの拡張戦略
ブランド拡張とは、ある製品で成功をおさめたブランドを、別の製品カテゴリーに用いることです。新製品を市場導入する場合、新しいブランドを構築するより も、過去に築き上げられているブランド・ネームを利用する方が短期的には容易なことが多い上、コスト面でも後者の方が明らかに勝っています。そのため、 今日では多くの新製品がブランド拡張によって市場へ導入されています。
しかし、ブランド拡張にもいくつかの問題点があります。ブランド拡張による新製品が失敗すると、当該ブランド全体のイメージが悪化し、オリジナルの商品に まで悪影響を及ぼすことがあります。また、ブランド拡張に頼りすぎると、新しいブランドを構築する機会を逸することにもなりかねません。そのため、ブランド 拡張にあたっては、ブランドの特徴や拡張先にしたいと考えている新製品の特徴などを慎重に検討して進めなければなりません。
ブランド構築のステップ
強固なブランドを構築するためには、一連のステップが求められます。ダートマス大学のケビン・ケラーは、強いブランドを構築するための手順として、ブラン ド・ビルディング・ブロックという枠組みを提唱しています。
強いブランドとは、アイデンティティ、ミーニング、レスポンス、リレーションシップという4つのステップを登ることで構築されます。4つのステップは、ピラミッド型 の6つのブロックに置き換えることができます。
第1のステップとして、アイデンティティを実現するためには、製品やサービスになんらかのセイリエンス(突出性)を生み出さなければなりません。その際、ブラ ンド・ネームを覚えてもらうことは当然として、ロゴやシンボルについても消費者の頭の中に刷り込まれていることが望まれます。
ミーニング(意味合い)は、 機能面でのブランド・パフォーマンスと抽象面でのブランド・イメージの2つに分けることができます。こうしたミーニングは、消費者 が実際にブランドを消費することにより形成されることもあれば、広告や口コミなどの外部情報を得ることによって形成されることもあります。
レスポンスは、ミーニングによって引き起こされるステップです。このステップも、ジャッジメントとフィーリングという2つに分けることができます。ジャッジメントと は顧客が有する個人的な意見や評価のことであり、フィーリングとは顧客が有する感情的反応のことを指します。ジャッジメントはパフォーマンスに対する反 応なので、より理性的であり、フィーリングはイメージに対する反応であるためより感性的であるといえるでしょう。
最後のステップは、リレーションシップの構築であり、ブランド・レゾンナンスを引き上げることによって実現されます。ブランド・レゾナンスとは、顧客がブランド に同調している状態です。強いレゾナンスを実現しているブランドの顧客たちは、同一ブランドを繰り返し購入するばかりでなく、ブランドとの間に心理的な絆 を醸成し、場合によっては顧客自身がブランドの伝道師としての役割を果たすことにもなります。

市場シェアの拡大
ある市場において、当該ブランドの販売額が占める割合のことをシェアと呼びます。シェアは企業のマーケティング目標とされることが多く、たいていの企業は 1ポイントでも高めたいと願っています。市場のシェアが10ポイント高くなると、税引き前のROIは約5ポイント上昇することがわかっています。
ただし、市場シェアを拡大しすぎると、ブランドにとって望ましくない顧客を多数取り込んでしまうこともあります。また、シェアを高めたいと思うあまりに戦うべき 土俵ともいえる市場を狭く定義すれば、利益機会や成長のチャンスを見逃すことにもなりかねません。
販売シェアの他、次の2つのシェアも有効な目標となります。
■マインドシェア
ある製品が購入されるとき、消費者にとって当該ブランドが想起される割合のこと。マインドシェアが高ければ、有利な競争を展開することができます。ただし、 それは必ずしも売り上げの増加に結びつくわけではありません。最終的な売り上げは、流通力や営業力なども加わって決定されるからです。
■ハートシェア
ある製品が購入されるとき、消費者によって買いたいブランドとして挙げられる割合のこと。ハートシェアが高ければ、顧客のニーズの近くにポジショニングさ れているということであり、マインドシェアが高いときよりも購入に結びつきやすいことが知られています。
メーカー、卸売業者、小売業者の提携
従来、メーカー、卸売業者、小売業者はそれぞれ独立したマーケティング戦略に基づいて企業活動をおこなってきました。このような場合、各メンバーはどうし ても自らの利益を優先させるため、全体としての効率が損なわれたり、様々なコンクリフトが発生することも少なくありません。そこで、最近ではメーカーと小売 業者は緊密な提携関係を構築しようという動きがあります。
一つの方法として、メーカー、卸売業者、小売業者が統合されたシステムとして機能する垂直型マーケティングシステム(VMS)と呼ばれる手法がとられること もあります。VMSには大きく分けて、3つのタイプがあります。
■企業型VMS
マーケティング・チャネルにおける複数の段階が特定の企業資本によって統合されている場合を指します。例えばメーカーが独自の卸売部門として販売会社 を運営したり、独自の小売部門として直営店を運営したりする場合です。企業型VMSはメーカーの資本だけでなく、小売業者や卸売業者の資本によって展開 されることもあります。
■契約型VMS
マーケティング・チャネルにおける複数の段階が契約によって統合されている場合を指します。具体的には、小規模な小売業者を支援するために卸売業者が 主宰するボランタリー・チェーン、共同出資により事業体を組織し卸売活動や生産活動を展開する小売業者主宰のコーペラティブ・チェーン、フランチャイザー と呼ばれるチャネル・メンバーのもとに生産から流通までの段階が統合されたフランチャイズ・チェーンがあります。
■管理型VMS
ある特定のチャネル・メンバーのパワーによってチャネルの各段階が調整されている場合を指します。圧倒的な市場シェアを有するメーカーや膨大な販売力 を有する小売業者は、自らの強大な力を背景としてチャネルを統合することができます。





